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横浜地方裁判所 昭和41年(ワ)946号 判決 1967年1月23日

原告 株式会社 三和製作所

右訴訟代理人弁護士 横田真一

被告 井出亀之丞

被告 井出正敏

被告 井出寿之丞

右被告ら訴訟代理人弁護士 須藤静一

同 浜谷知也

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告訴訟代理人は、「原告と被告ら間の昭和四〇年(ヒ)第一七号取締役並代表取締役選任申請事件について、昭和四〇年五月二二日になされた決定を取消し、弁護士森英雄の取締役並びに代表取締役の職務代行者は解任する。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告ら訴訟代理人は、本案前の答弁として「原告の訴を却下する。」との裁判を求め、本案の答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者双方の事実上及び法律上の主張

一  原告の請求原因

別紙事実及理由書記載のとおりであり、原告が本訴において取消を求める決定は、事実の誤認、審理不尽、採証の法則違反の外、法律の適用を誤った違法があり、かつ、非訟事件手続法第一九条第一項により右決定の取消しを求める。

二  被告らの本案前の答弁の理由

(一)本訴は石川平八郎を原告会社の代表者として提起されたものであるが、右会社は横浜地方裁判所昭和四〇年(ヒ)第一七号取締役兼代表取締役職務代行者選任申請事件の同年五月二二日付決定により弁護士森英雄が原告会社の取締役並びに代表取締役職務代行者に選任され、これと同時に旧代表者石川平八郎の商法第二五八条第一項による取締役並びに代表取締役職務代行者としての任務が終了し、その資格を喪ったものである。従って、石川平八郎は原告会社を代表する資格を何ら有しないから、同人を原告会社の代表者としてなされた本訴は不適法であり、却下さるべきである。

(二)本訴が前記決定により選任された原告会社の取締役兼代表取締役職務代行者の解任を目的とするものとすれば、原告会社こそ相手方としてなさるべきであり、被告らを相手方とすることは全く無意味である。被告らは本訴の結果によって法律上何らの制約影響を受けるものではなく、従って被告たるの適格がないので、この点からも本訴は却下さるべきである。

(三)前記職務代行者選任の決定は非訟事件手続法(以下非訟法という。)第一三二条の四によりなされたものであり、右決定に対しては不服の申立は許されていない。従って、その取消を訴求する本訴は不適法であり却下さるべきである。原告は非訟法第一九条第一項により右決定の取消を求めるというが、同条は裁判所が後日の考案によりみずからなした決定の変更、取消を職権をもってする途を法定しているに過ぎない。訴をもって裁判所に職権の発動を求めることは許さるべきではないから、この点からするも本訴は却下さるべきである。

三 本案前の答弁の理由に対する原告の反論

被告らは、石川平八郎に原告会社の代表権がないこと及び本訴が相手方とするべき当事者を誤ったものである旨主張するが、本訴は原告の請求原因に詳述とおり職務代行者選任手続が法律に違反し、その決定が無効即ち法律上の効力を生じないことにあって換言すれば、株主総会選任と裁判所選任(違法越権性顕著)の二君的代表取締役の優劣又は併存性につき、法律的効力を争うものである。のみならず石川平八郎が昭和四〇年二月一〇日の原告会社の株主総会で取締役兼代表取締役に選任されたことは証拠により明らかであり、かつ登記簿上石川平八郎が原告会社の代表取締役である旨の記載は現存し右登記簿上の記載が抹消されるかまたは同人の職務執行を停止する旨の適法な命令がない以上、同人の代表権を否定する法律上の根拠はない。従って、被告らの前記主張はいずれも誤りである。

第三証拠<省略>

理由

原告は、当庁昭和四〇年(ヒ)第一七号取締役並びに代表取締役選任申請事件について、同年五月二二日なされた決定の取消及び同決定に基く職務代行者を解任する旨の判決を求めているのであるが、非訟法に基く決定を司法裁判所が判決によって取り消すことは、非訟事件と訴訟事件とに本質的差違があることを前提として両種の事件につき別異の法的取扱を規定する現行法体系の下においては許されないものと解するを相当とする。本件において、原告が攻撃の対象とする決定は非訟法第一三二条の四に基く職務代行者選任の決定であり、同決定に対しては非訟法上不服申立が許されておらず、また民事訴訟法に基いて同決定の取消判決をなすべき法律上の根拠も見出し難い。

原告は非訟法第一九条第一項により職務代行者選任の決定の取消を求める旨主張するが、同条は非訟事件裁判所が後日の考察により自らさきになした決定の変更、取消を職権によりなしうることを法認した規定に過ぎず、司法裁判所が訴により非訟法に基く職務代行者選任決定を判決により取り消すことを許容した規定と解することはとうていできない。

(原告は、また任期満了により取締役ないし代表取締役の員数を欠くに至った場合には、非訟法第一三二条の四に基く職務代行者選任の裁判をなすべきでないのに前記決定がなされた旨主張しているが、右主張は商法第二五八条の文理に添わない独自の解釈であって、採用しがたい。)

以上いずれの点からするも、原告の本件訴は不適法であるので、却下するほかなく、<以下省略>。

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